飼料・人工授精・乳房炎 – もと酪農スタッフに質問!vol.3

環境・健康・動物へもたらす影響を受け畜産業が抜本的な転換を求められる今、公平で平和的な転換の道を対話で見出す試み。

ヴィーガンであるLisaが酪農スタッフ 丸山さん(仮名)をむかえ、〈ヴィーガン×動物産業関係者〉という一見まったく立場の異なる2人が、皆さんからの質問をきっかけに酪農家の目線にせまる。

飼料は自家栽培&農協から購入

 

Lisa Shouda(以下、Lisa):牛の食べる飼料の内容や、供給源について教えてください。「(栄養補助のため)サプリを与えてるか?」という質問も来ています。

 

もと酪農スタッフ 丸山さん(以下、丸山):メイン(粗飼料)は発酵させた牧草とデントコーンです。発酵した牧草はフルーティーな香りがします。仲の良い農家さん同士が農機具も共有していて、牧草とデントコーンは自分たちの畑で栽培し、収穫してサイレージで発酵させます。昔は縦長の建物のサイロを使っていましたが、現代は山にしてビニールシートで覆い、廃タイヤをのせます。

 

補助としては、まず数日間乾燥させロール状にした牧草。ずっと牛舎にあり、消化、反芻を助けるために食べるものです。加えて、トウモロコシやビートパルプの配合飼料。見た目はドッグフードのような形状で、農協のトラックが来て配合飼料の筒状の入れ物に上からホースで足して行きます。糖蜜(黒いシュガービートの搾かす)、カルシウム(粉状)、大豆かす(粉状)も農協から購入します。

 

サプリについてはわかりませんが、農家さんによると思います。配合飼料はドッグフードのようにいろんな色の粒なので、添加されている可能性が高そうです。農家さん自身も配合飼料の中身を疑問に思っている感じはしなかった。

 

Lisa:濃厚飼料は農協から購入するのですね。配合飼料の中身については農協から提供されているから安心という認識なのでしょうか。通称、餌屋さんと呼ばれる飼料会社もありますしね。

 

丸山:そうだと思います。もし飼料の中身をすごく考える人なら、例えば豚に発酵ビールを与えるような農家になりますよね。

 

人工授精と発情期の牛の様子

 

Lisa:働いていた酪農家では人工受精でしたか?そうだとしたら、どう思われていましたか?なかにはそれが性的搾取だという人もいますがそれについてはどう思われますか。

 

丸山:人工授精でした。人工授精の時に尻尾を振り回さないように背中の方に押さえたりするサポートスタッフもしていたので、人工受精師さんが凍結されたボトルの中から合う種を選ぶ様子がプロでかっこいい、というのが当時の感覚でした。受精師さんが上手いと一度で種付けできるし、下手だと付かないので、酪農家の間でも上手い受精士さんの評判が会話に出ていました。性的搾取とは思わなかったです。

 

Lisa:性的搾取と考える人がいると知った今はどう思いますか?

 

丸山:そういう捉え方も理解はできます。牛に限らず、鶏や養殖魚なども性的搾取になりますね。

 

Lisa:その通りですね。利用という名の搾取のために妊娠し産ませる構図は同じです。

牛の様子をもうすこし教えてください。

 

丸山:発情しているので、妊娠しないと目が血走って、我を忘れる感じ。『千と千尋の神隠し』の両親の豚とか、『もののけ姫』の猪のような感じで、人間にも突進したり、前脚をあげたりします。牛は巨体なのでこわいです。受精するとそういった行動が収まり、「よかった、種ついて」とほっとします。性格が穏やかな牛はわかりにくいこともありますが、発情するとお尻の穴からの透明の液が出てくるのでそこで判断します。

 

Lisa:疑問だったのが、搾乳期間と妊娠期間が重複していますよね。お乳を出す間も発情するのですか?

 

丸山:言われてみればそうですね。発情した牛みんなに種をつけるのでそうなのでしょうね。

 

酪農の牛達がかかる病気「乳房炎」

 

Lisa:乳房炎(乳腺組織の炎症)を患った牛はどんな様子でしたか?酪農家さんはどのような処置をしていましたか?

 

丸山:牛が乳房炎になると、触っただけで暴れるほど痛そうです。でも搾ってあげないと牛のためにならないので「胴締め」を使って体を固定します。

 

獣医さんが抗生物質を打ちます。4本ある乳房のうち、抗生剤を打っていない3本や2本から搾乳します。どの乳房に抗生物質を打ったかどうかわかるようにスプレーで印をつけました。まれに研修生などが間違えて抗生物質を打った乳房から搾乳してしまったら、その日のタンクは全て廃棄しなくてはならないので、すごい損失です。(※)

 

NOTE
※丸山さん勤務当時のお話です。
薬を投与している期間および残留中の乳は出荷されません。出荷停止期間(残留期間)は、獣医師より酪農家に通知され、抗生物質の検査は、酪農家からの出荷時と工場での受け入れ時に行っています。
(Cite:乳牛に薬(抗生物質)を与えてるの? https://www.yotsuba.co.jp/faq/faqlist/1874.html)

 

一度なったら再発しやすく、何度も同じ乳房に再発しカチコチになったらその乳房からはもう搾乳できなくなり「3本乳の牛」になる牛もいます。個体の識別は耳標を見るか、体の模様でもわかります。お尻に青や赤いスプレーで「×」と書いておいて消えそうになったら書き直したりします。暑いと体調が崩れやすく、乳房炎が急増します。

 

Lisa:乳房炎は死に至る病気だと聞いたことがあります。

 

丸山:多くはありませんが、悪化しすぎると熱が出て亡くなることもあります。亡骸はトラックに積まれ、家畜専用の焼却施設で焼かれます。